麻酔なしでの犬の歯科処置は安全?|正しい歯科処置について獣医師が解説

「歯科処置が必要と言われたけど麻酔が怖い」
「高齢だから麻酔をかけられない」
「麻酔なしで歯科処置をやってくれる場所を知りたい」
このように考えている犬の飼い主様もいらっしゃるのではないでしょうか?
犬の歯科処置は麻酔が必要で、確かに麻酔はリスクが伴う処置です。
しかし麻酔なしでの歯科処置は、麻酔をかけること以上に多大なるリスクが発生します。
本記事では麻酔なしで犬に歯科処置を行う場合の危険性について解説していきます。
ぜひ最後までお読みいただき、愛犬に対して麻酔をかけて歯科処置を行う場合の判断材料にしていただけると幸いです。
犬の歯科処置はどんなときに行う?
犬の歯科処置は人間の歯科処置とは異なり、審美的に行うことは少ないです。
病気の治療目的で行うことがほとんどですね。
犬の歯科処置を行う病気には以下のものが挙げられます。
- 歯周病
- 乳歯遺残
- 歯の破折
- 根尖周囲膿瘍
- 口腔周囲膿瘍
歯周病
犬の歯周病とは歯の周囲の組織に起こる病気のことです。
犬の口内環境はアルカリ性で、この環境が歯垢を歯石に変えやすくしていると言われています。
歯垢が歯石に変わるまでの期間は3〜5日間とも言われています。
この歯石にいる細菌が、歯ぐきや歯を支える骨に感染し、炎症を起こすのが歯周病です。
歯周病になった結果、歯を支える骨は溶けたり、それによって歯が抜けてしまうこともあります。
そのため歯周病では、歯石を除去するために、歯科処置を行うことがあります。
乳歯遺残
子犬は成犬になる過程で乳歯が永久歯に生え変わります。
その際に全ての乳歯が抜けずに残ってしまうことを乳歯遺残と呼びます。
乳歯遺残になると、残った乳歯に歯石がつきやすくなったり、噛み合わせが悪くなったりといった不都合が生じるため、抜歯を伴う歯科処置が必要になることが多いです。
多くの場合は避妊手術・去勢手術の際に行われます。
歯の破折
歯の破折は、犬が硬いものを噛んで、歯が割れてしまうことです。
放置すると歯の神経から細菌が感染し、
- 炎症
- 痛み
- 膿の貯留
といった症状が現れます。
そのため歯の破折は、歯を温存するための根管治療か抜歯のいずれかの治療を早急に行う必要があります。
根尖周囲膿瘍
根尖周囲膿瘍とは、歯の根元に細菌が感染し膿が溜まってしまう病気です。
ミニチュアダックスフンドやシェルティなどの鼻の長い犬種で、目の下に膿が溜まって腫れてしまうことが多いです。
中にはその溜まった膿が破裂し、膿が目の下から流れ出てしまうこともあります。
根尖周囲膿瘍も原因となる歯を抜く歯科処置が必要になります。
口腔鼻腔ろう
口腔鼻腔ろうは、歯周病などにより口と鼻を隔てる骨が溶け、口と鼻が繋がってしまう病気です。
口腔鼻腔ろうでは
- くしゃみ
- 鼻汁
- 目やに
などの症状が見られます。
口腔鼻腔ろうを治療するには、原因となっている歯の抜歯と、繋がってしまった穴を閉鎖する必要があります。

犬の歯科処置で行うこと
犬の歯科処置では
- スケーリング
- ルートプレーニング
- ポリッシング
- 抜歯
- 根管治療
などが行われます。
スケーリングは、歯の表面についた歯石を除去するための処置です。
しかし、歯石が付着するのは歯の表面だけではなく、歯周ポケットにも付着します。
そのため、歯周ポケット内の歯石を除去するためのルートプレーニングという処置も必要になります。
スケーリングやルートプレーニングを行うことで歯石そのものの除去は可能です。
しかし、この処置を行う過程で歯の表面に小さな傷ができ、これが新しい歯石の付着の原因となります。
そのためポリッシングという処置を行うことで、歯の表面を滑らかにもします。
一般的にこの
- スケーリング
- ルートプレーニング
- ポリッシング
の3つを合わせて歯科処置と呼ぶことが多いですね。
しかし、中には
- 乳歯遺残
- 歯の破折
- 根尖周囲膿瘍
- 口腔鼻腔ろう
などの一般的な歯科処置だけでは治らない病気もあります。
これらに対しては原因となる歯を抜く抜歯や、歯の神経に対する処置である根管治療が行われます。

麻酔なしの歯科処置はなぜ推奨されない?
愛犬の歯科処置を考えられた方は「なぜ麻酔なしで歯科処置をしてくれないのか?」と一度は思ったことがあるでしょう。
人間の歯科処置で全身麻酔をかけることはほとんどないので、当然の疑問ですね。
実は、犬の歯科処置を麻酔をかけずに行うことは、日本小動物歯科研究会やアメリカ獣医歯科学会から明確に否定的な意見が発表されています。
ここからは、なぜ麻酔なしの歯科処置が推奨されないかについて解説していきます。
痛くて怖いから
例え抜歯を伴わない処置だったとしても、歯科処置を行う際は痛みが伴います。
人間でも歯科処置を行うときに痛みを感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
犬にとっては、理由もわからずこの痛みを受けることになり、トラウマになってしまうこともあります。
中にはそのトラウマから人間に噛みつくようになってしまうことも。
麻酔をかけることでこの痛みや恐怖から開放してあげることができます。
ケガをする恐れがある
麻酔をかけずに歯科処置を行うと、小さなケガだけではなく、
- 下顎骨骨折
- 四肢の骨折
などの重大なケガにつながることがあります。
麻酔をかけずに歯科処置を行う際は、暴れる犬を押さえつけて歯科処置を行わなければいけません。
その際に暴れすぎて、四肢の骨が折れたり、暴れる中無理やり歯科処置を行うことで下顎骨が折れてしまうことがあります。
歯周病の治療を行うつもりが、余計な大きな治療を行わざるを得なくなってしまうことがあります。
誤嚥する恐れがある
通常麻酔をかけて歯科処置を行う際は気管チューブというチューブを気管に通します。
その気管チューブによって、歯科処置の際に飛び散る
- 水
- 歯石
- 唾液
が飛び散るのを防ぐことができます。
しかし、麻酔なしで歯科処置を行う場合は気管チューブを使いません。
そのため、上記のものを誤嚥してしまい、
- 肺炎
- 窒息
を招く恐れがあります。
そもそも歯の表面だけ治療しても意味ない
歯科処置で歯石を除去する場合は、歯の表面の歯石を除去するスケーリングだけではなく、歯周ポケットの歯石を除去するルートプレーニングも必要です。
しかし、麻酔なしでの歯科処置ではスケーリングまでしか行うことができません。
一見歯の表面がきれいになっていても歯周ポケットに歯石が残っていると
- 根尖周囲膿瘍
- 口腔鼻腔ろう
を発症するリスクは残ってしまい、歯科処置を行ったメリットが少なくなってしまいます。
安全に麻酔をかけるために
ここまで歯科処置を麻酔なしで行うことにメリットが少ないことを解説してきました。
しかし、麻酔をかけることにも危険性は伴います。
大規模調査に基づく犬の麻酔関連死亡率は全体で約0.17%、健康な犬に限ると約0.05%と言われています。
ここからは安全に愛犬に麻酔をかけるために、動物病院でしてもらうべきことを解説していきます。
麻酔前に検査をする
愛犬に麻酔をかける場合は麻酔前にきちんと検査をしてくれる動物病院を選びましょう。
特に高齢になると犬は心臓病や腎臓病などの持病を抱え始めます。
この持病がある場合は麻酔のリスクを引き上げてしまいます。
中には麻酔を中止せざるを得ない持病を抱えていることも。
そのため麻酔のリスクを下げるためには、この持病について正確に把握するための検査が不可欠となります。
麻酔が得意な動物病院で麻酔をかけてもらう
麻酔が得意な動物病院では、愛犬の持病について把握した上で
- 実際に麻酔をかけられるかどうかの判断
- 持病に配慮した麻酔
を行うことができます。
麻酔の得意な動物病院で麻酔をかけてもらうことで、麻酔のリスクを低減することができます。
局所麻酔とは
麻酔が得意な動物病院では全身麻酔時に局所麻酔も併用してくれます。
局所麻酔は全身麻酔とは異なり、意識を消失させずに鎮痛してくれる麻酔のことです。
全身麻酔より全身への副作用が少ないとされています。
人間の歯科処置では局所麻酔だけで行うことが多いですね。
犬の場合は体を動かしてしまうため、全身麻酔で歯科処置を行わなければいけませんが、局所麻酔を併用することで、全身麻酔の量を減らせ、麻酔のリスクも低減することができます。
実際に歯科処置を行う際は、動物病院に局所麻酔まで行っているかどうか確認するのがおすすめです。

まとめ
「麻酔なしで歯科処置をする」
と一見聞くととても犬の体に配慮しているように聞こえるでしょう。
しかしここまで解説したように、麻酔なしで歯科処置を行うことはリスクを伴います。
歯科処置を行う際に麻酔に対して不安があるのであれば、なるべく麻酔の得意な動物病院を探し、歯科処置を受けるようにしましょう。
当院は歯科処置の麻酔を含む麻酔下処置に力を入れています。
何かお困りの際はいつでもご相談ください。

